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サステナブルなものづくりで時代をリードする 〜石川樹脂工業株式会社〜


サステナブルなものづくりで時代をリードする

自社ブランドで新素材の開発・提案を続ける石川樹脂工業株式会社。
今回は専務取締役の石川勤氏に、新分野を開拓するものづくりについてお話を伺いました。


専務取締役の石川勤 氏

技術と挑戦で価値をつくる

まずは創業の経緯をお聞かせください。
元々は私の曽祖父が山中漆器の木地師をしており、その品質の高さから輪島塗の木地として販売を拡大したのが事業の始まりです。
その後、漆器のニーズが高まってくると、木を挽いた素材では生産性やコストの面が見合わなくなり、ベースを樹脂素材にした合成漆器が主流となりました。以降は樹脂そのものを扱う事業を拡大しながら現在に至っています。

時代の流れに合わせて素材を変えてこられたのですね。現在の主な事業内容やサービスについて教えていただけますか。
まずは自社ブランド事業の展開ですね。特に力を入れている「ARAS(エイラス)」では樹脂素材食器の製造・販売をしています。その他にも「Ai collection(アイコレクション)」、「Plakira(プラキラ)」、仏具の「サンメニー」といった各ブランドがあり、業務のほぼ半分を占める大きな柱となっています。
もう半分はOEM事業で、弊社が様々な素材を扱ってきた歴史から、幅広い分野に対応しています。食器や雑貨で他社とのコラボ商品、大手飲食チェーン店さんの食器、スーパーの什器や、高速道路の電線を支える部品なども扱っています。
半々ですが、自社ブランドの方にやや比重があります。OEMの仕事もしっかりとっていくという点では課題があると言えますね。最もこのバランスが半々でいいのか7:3や8:2がいいのかという点は、時代によって変わってくるものなので、自社や外部の状況から随時判断していくことになります。


自社ブランド「ARAS」の食器

金沢の文化と建築

御社でのブランドは立ち上げは2007年からということですが、当時から自社ブランドを押し広めようという方針で進めておられたのでしょうか。
私が入社したのが2016年なので当時の方針については正確には分かりませんが、父は「自社ブランドをしっかりやりたい」と話していました。自分の手で商品を作りたいというのは父の夢の一つではあったのかなと思います。

入社当時はどのような仕事から始められたのでしょうか。
経営全般ですが、主に営業です。戻って来た当初は、社員の皆さんにあまり受け入れられていなかったと思います。そこで社員さんたちが認めてくれるような結果を出す必要がありました。当時でいえば、自分のお客さんを作ってしっかり売り上げを作るということ。その頃、120~130名ほどいる社員さんのほとんどが製造担当で、営業は5、6人だけでした。しっかり売り上げを作れる社員は重宝されるし、結果としても分かりやすいですよね。たまたま運もあり、営業成績で1番になるという結果を出せたことで、少しずつ受け入れてもらえました。

「ARAS」は専務ご自身が立ち上げられたそうですが、ブランドを増やしていくことには何か想いがあるのでしょうか。
そもそも私は、中小企業やプラスチック樹脂というもののイメージを変えていきたい、中小企業でスタートアップ的なことができないかなという想いを持って経営しています。その目線から、「ブランド」というよりも商品という次元を超えて新しい価値をどう提供できるのかということで「ARAS」の開発に挑戦しました。

新しい素材と価値の本質

御社の「サステナブルな商品開発」について、お聞かせいただけますか。
プラスチックというと「使い捨て」など負のイメージが強いと思いますが、「新素材」という表現の方が適していて、今なお革新的な素材、サステナブルな提案がどんどん出てきています。
今伸びているARASは「食器」に特化しており、「料理を美味しくするため」という点で形や素材を突き詰めています。「暮らしを豊かに彩る食器」「1000回落としても割れない素材」で、安心して普段使いもしていただけます。素材として使用しているトライタンはプラスチック素材の一種です。
他にも廃材の杉皮を混ぜ込んだ「杉皮の器」や、離島などで真水を作る際に海水をろ過する工程で出る不純物を活用した「海の器」など、環境問題を解決する素材の提案をおこなっています。


料理を美味しくいただくことを究めている

商品や素材の開発をするうえで、一番難しいと感じることは何ですか。
商品開発というのはすごく傲慢な行為だと思っていて、例えば食器でも、今の食器に対してすごく不満を感じている人なんていないですよね。でも新しいものを作るということは、それに割って入り既存のものを脅かすような新しい価値を提案しなくてはならない。お客様が言葉にしていない本当のニーズや想い、競合が成し遂げていないところをどこまで掘り下げられるかというのが大きな勝負所で、その点が一番難しいと思います。


杉皮の器


海の器

今後、国外の市場についての展望はお持ちでしょうか。
すでに少しずつですが動いています。当初から「素材の面白さ、ものづくりの未来を世界に発信していきたい」というビジョンを持っており、海外展開は常に視野に入れています。
海外の市場は、北米と中国の2つのエリアで検討しているところです。いずれにしても、まずはしっかり焦らずに地盤を固めることを進めていきます。
マーケティングやブランディングで重要なのは、消費者やその生活に対する理解になります。まずは数年かけて、海外の人のライフスタイルやどういう未来を描いているのか、理解を深めることをやっていきたいですね。実際に現地の生活や文化を体験していかないと、食器の提案などもピントの外れたものになってしまいます。

新たなチャレンジに向けて「お客様の本当のニーズ」を考える際、具体的にどのようなことをされていますか。
徹底したマーケティングをすることを大切にしています。一般消費者のニーズを理解するにはとにかく情報が必要なので、SNSや動画サイト、実際の百貨店さんの店頭などを大量に見て研究します。世の中は本当に多種多様なので、なるべく多くの場所で多くの人を見る必要があります。開発にあたっては特定のペルソナを作ることもしますが、そこで性別も年齢も異なる誰かにどこまでしっかりなりきれるかが問われるので、できる限り多くの情報を得るよう行動していますね。

マーケティングに関わっている方は、社内に何名いらっしゃるのでしょうか。
今は6人くらいです。多くの場所を見てもらうということで、なるべく出張などにも行ってもらっています。各都道府県の百貨店さんへのポップアップイベントなどは特にいろいろ学べるチャンスですね。現地でお客様や店員さんとの対話から自分たちの中の消費者像も膨らませて欲しいと考えて、期待をもって積極的に派遣しています。

御社でのものづくりの価値とは具体的にどんなものをイメージされていますか。
「価値」の定義は、世の中を少しでも前向きに変えていくということだと思っています。これは時代によって違いますし、サステナブルの定義も変わっていくでしょう。AIの出現によりマーケティングやブランディングの価値も変わってくる。石川樹脂工業が果たすべき役割というのは、「面白い提案だね」と世の中の多くの人に思ってもらえることですね。「杉皮の器」や「海の器」では今までになかった提案ができました。そういった新しい提案をみんなが真似してくれたらいいなと思っています。



「杉皮の器」の素材となる杉皮のペレット

人の付加価値、AIの生産性

経営される上で、ご自身が大切にしていることは何でしょうか。
働き甲斐のある会社であるということです。例えば、頑張ったら報われる報酬体制があること、働くことで世の中がよくなるということ、オープンで相談できる環境があること。特に報酬についてはかなり大事にしています。そのためにはしっかり生産性を上げていくしかない。単純労働をロボットやAIに任せて、いかに人が付加価値の高い作業をするかというところが一番大きいと思います。



実際に導入されている成形機ロボット

これからの製造業やものづくりの未来をどう考えていますか。
ものづくりに対する人手不足はどんどん深刻になっていて、人が一番大きい財産になっていくと思っています。弊社でも現在ロボットの導入を進めていますが、今後AIも出てきてさらに仕事のやり方が変わっていくでしょう。そうなったときに人が果たす役割というものを、ものづくりを通して提案していかないと、大きく世の中に遅れていくだろうと考えています。

逆にどのようなところに人の力が生きると思いますか。
人とロボットの違いは「五感」があるかないかです。ARASですごくいいなと思っているのは、食体験という五感すべてで味わうところでの提案ができるということで、ものづくりとして面白みを感じられるし、私としても未来を感じています。味覚や聴覚、触感などをしっかり仕事に変えていきたいですね。

ロボットやAIの導入について、社員の皆さんの理解は進んでいるのでしょうか。
かなり進んできています。これは有難いことと思っていますね。
弊社では約3年で労働生産性が2倍になりました。3年前は「そんなことをしても自分たちの待遇はよくならないのではないか」という雰囲気がありましたが、今は目に見えて待遇が改善されていて、報酬も上がっています。新しい取り組みを進めて環境が改善されたという結果から、社員さんたちの理解も進んでいると感じます。

報酬については評価制度などを取り入れていますか。
評価制度というのは、現在は全くおこなっていません。実は前職の頃に、評価制度を取り入れることによる弊害というものを見てきたので、今は悩んでいます。評価制度を明確に取り入れると評価に繋がりやすい、目に見える成果しかやらないということが起きてくること。目に見える成果だけではない縁の下の力持ちみたいな、それでも重要な業務が正当に評価されにくくなるということ。
仕事に自信がある社員さんからは「取り入れてほしい」という声もあります。その気持ちは痛いほど分かるんです。「ごめんなさい」と言いながら、そういう弊害があるために自分は悩んでいるということを率直に伝えて、何とか理解をいただいていますね。

理解の深い社員さんたちに恵まれているのですね。社内の風土や成長環境はどのような雰囲気でしょうか。
挑戦できる、失敗を許容されるという点が一番良い風土だと思っています。提案をするなど新しいことを始めようとすると、どうしても失敗は多くなります。同じ失敗を繰り返すのはよくないですけど、失敗を恐れずに経験として、新しい取り組みに対する試行錯誤に前向きであること。それが一番良い風土だと思います。
今後は、しっかりとお客様と向き合うことを進めていきたいです。自社ブランドの感想をダイレクトにいただけるので、ARASのどういうところを評価して選んでいただいているのかを積極的に共有して、「こういう想いで購入されているのだから、もっとこういうことを提供していかなくては」と丁寧に理解していく。そんな風土をつくっていけたらと考えています。

今後のビジョンを教えてください。
私たちは中小企業ですが、まだまだ世の中にインパクトを与えることができると思っています。だからこそ、自社の強みを最大限に活かし、サステナブルなものづくりで時代をリードできる企業を目指します。どう未来に貢献していけるのかということを世界レベルで考え、本当の意味での「新しい価値」を社員とともに提案し続けていきたいです。


石川樹脂工業株式会社
住 所 石川県加賀市宇谷町タ1-8
電 話 0761-77-4556
URL https://www.ishikawajyushi.net
設 立 昭和40年(1965年)4月
従業員数 80名

事業内容
樹脂製の食器雑貨、工業製品、仏具、
その他OEM商品の企画、製造並びに販売