「ただいま」から広がるまちづくり
石川県七尾市で60年以上愛され続ける七尾自動車学校。
代表取締役社長の森山明能氏は自らをポートフォリオワーカーと称し様々な形で地域のために尽力されています。
地域との交流の場としてスタートした宿泊施設「TADAIMA」にてお話を伺いました。
代表取締役社長 森山 明能 氏
生涯無事故である幸せ
まずは事業内容をお聞かせください。
自動車学校ということで、普通車・中型・大型特殊・二輪車などの免許取得のための教習をしています。
一番大切にしているのは交通安全。ただ免許を取って終わりということではなく、「生涯無事故の幸せ」を提供し続けることを理念として掲げています。
免許を取っても事故を起こせば幸せでなくなってしまう。無事故であるということはとても幸せで、価値あることなんですね。
そういった想いから、医療連携、高齢者講習、交通安全教育などにも力を入れています。
他に、ドローンのライセンス取得スクールもあります。
森山さんで3代目と伺いました。
創業は祖父の代です。当時モータリゼーションの波が一気に来て、免許取得に関しても指定自動車学校というシステムができ、全国にどんどん自動車学校が設立されていきました。
この七尾にも自動車学校を作ることになり、地域の人達が出資してできたのがこの学校です。
出資者の一人である祖父が代表を務めることになり、その後、父から自分へと受け継いでいます。
ポートフォリオワーカーとして
自動車学校運営の他にも、たくさんの顔をお持ちですね。「能登を明るくする男」という肩書も拝見しました。
私の父は、七尾のまちづくりに長年携わってきました。その背中を見て育ったおかげで、私も小さい頃からまちづくりに興味がありました。
文集にも「七尾をより良くしたい」と書いていたくらい、ちょっと変わった子どもでしたね(笑)。
ポートフォリオワーカーと称しているのは、いろいろなものを組み合わせることで、自分のやりたいことをやっていきたいという思いからです。
パラレルワーカーではなく「組み合わせ」という意味であえてこのように表現しています。
今ある肩書としてはこの七尾自動車学校の他に、民間のまちづくり会社「御祓川」のシニアコーディネーター、ローカルキャリアを推進する団体「地域・人材共創機構」の理事、事業承継のマッチングを行う「ノトツグ」の取締役などがあります。個人事業として無人運営の一棟貸しゲストハウスもやっているんですよ。
そうした組み合わせの中で、新しい出会いやプロジェクトが生まれていくのが楽しいですね。
経営者として大切にされているのはどんなことですか。
うちの場合は商品があるわけではなくサービスなので、やはり「人」ありきで、人がいないと成り立ちません。
そのためまずは社員が意義を持って働けることを大切にしています。社員がどう生きたいか、どう暮らしたいか、個と会社のウェルビーイングのすり合わせですね。
それから、地域との関係性。理念にある「生涯無事故の幸せ」を提供するには、教習が終わった後もまたこの学校のことを思い出してもらうことが大事です。
そのためには、教習をするだけではなく一人ひとりと密接な関係を紡いでいく。社員にもそうなって欲しいですし、学校としても 「ただいま」と言われるような学校であることを目指しています。
宿泊施設の名前にもなっていますね。
そうなんです。ここ七尾の課題として担い手不足ということがあり、地域と若者をつなぐコミュニティの拠点を作りたいと思っていました。
住む人が少ない中、合宿免許に来てくれる10代〜20代は毎年700人いるわけです。
この700人にうまくアプローチすれば地域の未来を変えられる可能性があるのではないかと考え、2023年11月に完成した施設がこの「TADAIMA」です。
全体的にゆったりとした造りで、イベントをできるスペースもあります。新しくコミュニティマネージャーを設置して、地域との関わり作りをスタートしたところです。
実際に、別々に入校してきた合宿生達が仲良くなって一緒にご飯を食べている様子などを見ると、とてもうれしいですね。
先日開催したアイスクリームパーティは合宿生も通学生も一緒に盛り上がりました。
また、ポートフォリオワーカーとして様々なプロジェクトに携わっているのですが、この地域に興味を持ってくれる若者が増えているのも実感しています。
この前も能登島の向田の火祭に行ったら、以前合宿生として来ていた金沢の大学生達がそこでお手伝いをしてくれていたんです。まさにこれこそが自分の目指していたことだ、と感激しましたね。
これからの能登のために
1月の能登半島地震の影響は大きかったことと思います。
そうですね。元々あった合宿寮が大規模半壊の判定を受けたり、敷地内で崖崩れが発生したりという被害がありました。
それでもまだましな方だと言えるくらい、能登では大きな被害がありました。
そんな中で 「TADAIMA」 には10トン分の貯水タンク、布団が合宿生用に沢山あったので、地震発生時には避難所として使っていただきました。
100人くらいの方の利用があり、 ここを拠点にして地域の復興が進んでいったんです。地域の方のお役に立てて良かったなと感じています。
今後のビジョンをお聞かせください。
復興というのは終わりがないんですよね。いわば、復興のプロセス自体が復興だと思うんです。
復興をやり続けるという意欲、活動、モチベーション。それを止めないでやっていく、まちを動かし続けていく、そういったことが必要だと感じています。
能登半島地震を経験して、地域づくりという意味では、いま能登が日本の最先端であると言えるでしょう。
だからこそチャレンジングでありたいですし、主体的に行動できる人が集まってくるような地域にしていきたい。
そのために、七尾自動車学校が「ただいま」といえる場所として、地域の求心力になっていきたいですね。
七尾自動車学校
住 所 石川県七尾市古府町南谷21
電 話 0767−53−1422
URL https://www.nanao-drive.co.jp
設 立 1958年
事業内容 自動車教習、ドローン講習、高齢者講習、宿泊施設運営