地域と共に発酵する企業
金沢市大野で創業113年を迎える株式会社ヤマト醬油味噌。
今回は5代目後継であり醸造家でもある営業部長の山本耕平氏に、発酵食と企業経営を通じた地域づくりについてお話を伺いました。
400年の歴史とアイデンティティの再構築
まずは会社の概要と山本さんの経歴について教えてください。
ヤマト醬油味噌の創業は1911(明治44) 年になります。初代は北前船の船乗りで、金沢と北海道を行き来し醤油や味噌を販売していました。その後、2代目が醤油、3代目が味噌の醸造を始めました。
現・代表取締役の山本晴一と、その弟で工場長を務める山本晋平の 「4代目ブラザーズ」が塩麹・醤油麹・甘酒などの加工商品分野に取り組み、会社を成長させてきました。
現在は従業員数60人、 扱う商品アイテムは1,000種以上にのぼります。
私自身も、この大野で育ちました。この町は白山の伏流水があることや港がすぐそばにあることから、江戸時代に加賀藩より醤油産業の町として制定されたと言われています。
このように400年以上の歴史を持つ大野では、多くの家庭が醤油や味噌の製造業を営んでいます。みんながまちづくりに関わっている雰囲気で、とても活気があります。小学校の友人の中にも醤油味噌屋の子が多かったですね。
幼少時代は職人さんたちと共に過ごす時間も多く、とても可愛がってもらいました。また代々直系で事業承継してきていたこともあり、自身もこの会社に身を置くことを自然と想像していました。
その後はもっと外の世界を知りたいと県外の大学に進学して経営学を学び、飲料を扱う貿易会社に就職しました。
会社に戻られるきっかけはどんなものだったのでしょうか。
今では当社の人気商品となっている「玄米甘酒」が十数年前に開発されたことがきっかけでした。
醤油、味噌に続く新事業として大きな事業投資をしたのですが、当時はなかなか選んでいただくことができませんでした。玄米甘酒を単品でお客様に提案しに行っても「あんた醤油屋さんやろ」と否定から入られることが多く、自分たちが想定したようには物事が進みませんでした。外から見られる印象は依然として醤油屋さんだったのです。
そのような中で事業を再定義する必要に迫られた時期に入社しました。
逆風からの入社だったのですね。まずは何に取り組んだのでしょうか。
「ブランドって誰のためのものなんだろう?」ということをテーマに自社のアイデンティティについて社長と徹底的に話し合いました。その結果「発酵食文化を通して、お客様の健康で喜びに満ちた食生活の実現のお役にたつ」という経営理念と「目指せ、発酵食美人®」というコンセプトが生まれました。
私たちが作っている醤油・味噌・甘酒、これらに共通するのが「糀」です。これが事業を再定義するキーとなりました。
糀は腸内を整えてくれます。お客様の健康の根っこづくりとも言えるんです。
社長の言葉でいうならば発酵食美人は「ちょう美人」。食生活も含め、ライフスタイルそのものが健康的で美しい人たちを指します。
このような人たちを増やしていきたい、私たちが作っているのは「人の健康」であり「豊かな食卓」だということを念頭に「一汁一菜に一糀」を提唱するようになり、お客様のライフスタイルに関わっていく企業を目指すこととなりました。
地域を大切にし、 世界の人を「発酵食のまち 金沢大野」へ
地域との関わり方も変わりましたか。
「発酵食祭り」という、お客様と一緒に発酵食品の魅力を楽しむ感謝祭を、年2回10年近く行っています。社内の若手をリーダーとして登用しているので、新しくチャレンジできる良い機会にもなっています。
今年の発酵食祭りでは、当社の料理教室「糀部」に参加されているお客様にも運営側で参加していただきました。また、このお祭りで新しいスタッフを募集してみたところ数名のエントリーがあり、とてもありがたみを感じました。
他にも、ひしほ醤油を使ったお寿司屋さん、麹漬けの肉を作るお肉屋さん、麹を使った特製弁当を提供するお弁当屋さんなど、地域のお店や企業とのコラボレーションも多くあります。
このように協力しあうことで、地域の食文化をさらに豊かにしていきたいです。
これからの時代、海外にも目を向けているのでしょうか。
チャレンジを続けてきた結果、2割程度が海外向けの販売となっています。
しかし、だからこそ私たちは地元を大切にし続けています。なぜなら、その2割の海外の方もやはりこの北陸で磨かれた味、食のレベルの高さを求めているからです。
一番大切にする地元というのは商圏でいうと、北陸3県の甘口醤油を愛する人たち。
今後この人たちが元気であればあるほど、海外の人たちにも満足してもらえるものを提供できると考えています。ですから私たち地元企業としてのミッションは、地元にしっかり貢献するということだと思います。
もちろん、海外に自ら進出していくことも大事ですが、それ以上に地元に来てもらう、地元の良さを知ってもらうことを大切にしたいです。
最後にこれからのヤマト醬油味噌のことを教えてください。
未来を考えるときはいつも、「金沢大野から世界へ、世界から金沢大野へ」という言葉を心に留めています。
もともと港町で、老舗の醤油醸造業の仲間たち、お寿司屋さんや和菓子屋さんがあるというポテンシャルに加えて、ここ数年のうちにモロッコ料理専門店やクラフトジンの蒸留所、洋菓子屋さんやローカルの子ども向けのコミュニティとなるような駄菓子屋さんもオープンしました。
これまでの北陸は1泊して十分だったかもしれませんが、北陸に2泊も3泊も滞在したくなるような、日常にこそ豊かな食文化が流れる「発酵食のまち 金沢大野」を目指して、その魅力の一つになれるように事業を磨いていきます。
世代を超えて伝えたいのは「一汁一菜に一糀」の食生活。ここに来ると、大人から子どもまでが健やかに楽しく暮らしている。そんな姿自体が世界で光るものになると思っています。
写真提供:株式会社ヤマト醤油味噌
株式会社 ヤマト醬油味噌
住 所 石川県金沢市大野町4丁目イ170番地
電 話 076-268-1248
FAX 076-268-1242
URL https://www.yamato-soysauce-miso.co.jp
創 業 1911年
従業員数 60名
事業内容 食品製造・販売
実店舗 ひしほ蔵/東山直売所/金沢百番街店
発酵美人食堂®/こめトはな